主役がいない邦画5選 ― 群像劇が描く多彩な人間模様

Uncategorized

怒り

監督
李相日

主要キャスト

  • 渡辺謙
  • 森山未來
  • 松山ケンイチ
  • 宮崎あおい
  • 綾野剛
  • 広瀬すず
  • 妻夫木聡

見どころ
吉田修一の同名小説を映画化した本作は、ある残虐な殺人事件の犯人が逃亡し、全国3か所で暮らす人々のもとに「顔を変えた男」が現れる、という構成で進みます。観客は3つの場所で同時進行する人間関係の中に「犯人かもしれない」という疑念が入り込み、信頼と不信の間で揺れ動く登場人物たちを見守ることになります。群像劇としての構成は非常に緻密で、全員が主役級のドラマを持ちながら、互いの物語は直接交わらず、事件の影だけが共通項として漂います。李相日監督は『悪人』でも人間の内面を丁寧に描きましたが、『怒り』ではさらに広がりを持たせ、愛情、信頼、裏切り、そして「怒り」という感情が人をどう変えるかを描き出しています。全編を通して張り詰めた空気が漂い、心理的なサスペンスが途切れません。

あらすじ
千葉県の新興住宅地で夫婦が惨殺される事件が発生。現場には血で書かれた「怒」という文字だけが残され、犯人は整形して逃亡したとされます。その後、千葉の漁港、東京の新宿、沖縄の離島という全く異なる3つの場所で、それぞれ過去の素性を語らない男が現れます。千葉では漁師(渡辺謙)とその娘(宮崎あおい)が、沖縄では自由奔放な若者(妻夫木聡)と漂流者のような青年(綾野剛)が、東京ではキャリアウーマン(広瀬すず)と同僚(松山ケンイチ)が、それぞれ交流を深めていく中で、彼らの素性への疑念が膨らんでいきます。観客は3つの物語を行き来しながら、「彼は犯人なのか、それとも違うのか」という問いを抱き続けることになります。物語はやがて、信じることと疑うことの間で揺れる人間の弱さと、それがもたらす取り返しのつかない結末へと進んでいきます。

レビュー
『怒り』の最大の魅力は、3つの物語が持つ空気感の違いと、それぞれにおける人間関係の濃さです。千葉編は家族の絆と疑念、東京編は都会の孤独と信頼、沖縄編は閉ざされた島で芽生える愛情がテーマとして描かれます。どの物語にも明確な主役は存在せず、登場人物全員に等しく焦点が当たるため、観客は自分が感情移入するキャラクターを自由に選ぶことができます。演技面では、宮崎あおいの繊細さ、森山未來の不穏な存在感、広瀬すずの初々しさと影を帯びた表情が印象的。また、沖縄編の自然光を活かした映像美や、東京編の閉塞感あるロケーションなど、撮影面での工夫も光ります。ラストに向けて「信じられなかった後悔」が重くのしかかる展開は、観る者の胸に深く突き刺さります。単なるミステリーやサスペンスではなく、人間の感情の脆さを暴き出す群像劇としても高く評価できる一本です。

配信中サブスク
(例)U-NEXT、Amazon Prime Video、Netflix など
※配信状況は時期によって変動します。

YouTubeで「怒り 2016 予告 公式 特報 trailer」を検索


コメント

タイトルとURLをコピーしました